公開されたAIモデルは道路の点検に使える?評価の数字が、そのまま現場で出るとは限らない理由
公開されたAIモデルは、ライセンス、評価の条件、入力の条件、苦手な場面の4つを確かめれば道路の点検に使えます。重みを公開する理由と、道路の穴を見つけるモデルを例にした評価の読み方も解説します。

公開されたAIモデルも、道路の点検に使えます。使う前に、ライセンス、評価の条件、入力の条件、苦手な場面の4つを、配布元の説明で確かめてください。配布元が示す評価の数字は、評価に使った画像での成績で、自分の現場で撮った画像での成績ではありません。
なぜAIモデルの重みを公開するの?
重みは、AIモデルが学習した結果をまとめたデータです。重みがあれば、同じモデルを手元で動かすことも、自分の画像で学習し直すこともできます。
インフラインテリジェンスのモデルラボでは、道路の損傷や標識を見つける検出モデルの重みを公開しています。点検の手間を減らす技術は、使う人が多いほど弱いところが早く見つかり、学習し直す人も増えるからです。重みと一緒に載せるのは、動かし方の説明、評価の結果、学習データの出典の3つです。
総務省と経済産業省の「AI事業者ガイドライン」は、AIの開発者の取組として、データの集め方やラベル付け(正解の付け方)、使ったアルゴリズムを、できるかぎり第三者が確かめられる形で文書にすることを挙げています(出典: 総務省・経済産業省)。
ライセンスは何を確かめる?
公開モデルのライセンスは、重みとコードだけを見ても足りません。元にしたモデルと、学習に使ったデータにも、それぞれ条件があります。モデルラボで公開を準備している、道路の穴(ポットホール)を見つけるモデル「Pothole RF-DETR Nano」の場合は次のとおりです。
| 確かめるもの | Pothole RF-DETR Nano の場合 | 見るところ |
|---|---|---|
| 重みとコード | Apache-2.0 | 配布物のLICENSEとNOTICE |
| 元にしたモデル | RF-DETR Nano(COCOで事前学習した公開の重み) | 元のモデルの配布元 |
| 学習データ | RDD2022とRoboflow Universeから選んだ195枚(どちらもCC BY 4.0) | 各データの配布元 |
Apache-2.0は、商用を含めて使う、改変する、配り直すことを認めるライセンスです。配り直すときは、ライセンスの写しを渡し、変更したファイルにはその旨を書き、元の著作権表示やNOTICEファイルの表示を残します。商標を使う許可は含まず、配布物は「現状のまま」で、保証はありません(出典: Apache License, Version 2.0)。
元にしたモデルのRF-DETRは、Nanoを含む一部の大きさの重みがApache-2.0で、XLなど別の大きさにはPML 1.0という別のライセンスが付いています(出典: roboflow/rf-detr)。同じ名前のモデルでも、大きさによって条件が変わることがあるので、使う大きさの表記まで確かめます。
学習データの条件はどう見る?
CC BY 4.0のデータは、営利目的を含めて複製、配り直し、改変ができます。条件は、適切なクレジットを表示し、ライセンスへのリンクを示し、変更したならその旨を書くことです。ライセンスのページには、パブリシティ権や肖像権など、ほかの権利が使い方を制限することがあるとも書かれています(出典: Creative Commons)。道路の画像には人の顔や車のナンバーが写ることがあるので、学習データの画像を配り直すときは、この注意も関係します。
事前学習のデータも、条件が層になっていることがあります。COCOでは、アノテーション(正解の枠やラベル)はCC BY 4.0ですが、画像の著作権はCOCOの運営側が持っておらず、画像の利用はFlickrの利用規約に従うとしています(出典: COCO)。
評価の数字はどう読む?
検出モデルの評価では、主に次の3つの数字が使われます(出典: Ultralytics Docs)。
- 適合率: モデルが「あり」と出した結果のうち、本物だった割合。高いほど誤検知が少ない
- 再現率: 実際にある対象のうち、見つけられた割合。高いほど見逃しが少ない
- AP50: 予測した枠と正解の枠の重なり具合(IoU)が0.5以上なら当たりとして、適合率と再現率の関係を1つにまとめた数字
Pothole RF-DETR Nano の評価は次のとおりです。適合率と再現率は、確からしさが0.45以上の候補を検出として扱ったときの値です。
| 指標 | 検証用(29枚・穴42個) | テスト用(29枚・穴44個) |
|---|---|---|
| AP50 | 0.728 | 0.737 |
| 適合率 | 0.79 | 0.80 |
| 再現率 | 0.62 | 0.73 |
テスト用の再現率0.73は、29枚に写った穴44個のうち、およそ7割を見つけたという意味です。適合率0.80は、モデルが穴として出した枠の8割が本物だったという意味です。
この数字がそのまま現場で出るとは限らない理由は、モデルの説明のページにも書いてある3つです。
- 評価に使った画像が各29枚と少なく、数字が大きくぶれる
- しきい値(0.45)をテストの結果も見て決めたため、テストの数字は実力より良く出ている可能性がある
- 評価の画像は学習と同じ公開データから選んでいて、実際に車で走ったときの成績はまだ測っていない
AI事業者ガイドラインも、AIの開発者が提供者に伝える事項として、使い始めたあとに予測の性能が大きく変わる可能性や、想定した精度に届かないことがあることを挙げています(総務省・経済産業省)。評価の表を見るときは、数字と一緒に、何枚のどんな画像で測ったかを読みます。
入力の条件はどこを見る?
同じ「検出モデル」でも、受け取る画像の形と、出力の後始末はモデルごとに違います。学習のときと違う前処理で画像を渡すと、評価のときと同じ成績は出ません。
Pothole RF-DETR Nano は、縦横384ピクセルのカラー画像(RGB)を受け取ります。元の画像は縦横比を変えて、正方形に引き伸ばします。出力は1枚につき最大300件の候補で、重なった候補をまとめる処理は要りません。
モデルラボで公開している投雪防止表示板のモデルは、横1280×縦736ピクセルの画像を受け取ります。遠くの表示板は画面の一部を縮めずに切り出し、近くの表示板は画面全体を3分の1に縮めて、同じモデルを2回動かします。重なった候補をまとめる処理は、使う側で組みます。
配布元の説明書で、画像の大きさ、色の並び(RGBかBGRか)、縮め方、しきい値、出力の読み方の5つを確かめます。配布元が結果を載せている画像があれば、自分で組んだ処理で同じ枠と確からしさが出るかを比べます。
苦手な場面はどう確かめる?
配布元が「確かめていない」と書いている条件は、苦手な可能性がある場面です。Pothole RF-DETR Nano は、夜間、雨、逆光のときの成績を確かめていません。見つけるのはポットホールだけで、ひび割れは見つけません。評価の画像では、砂利の多い道の小さな穴を見逃し、濡れて黒く見える路面を穴と取り違えた例がありました。
自分の現場で使えるかは、次の順で確かめます。
- 使う場所で、使う機材と取り付け方のまま画像を撮る
- 時間帯、天気、路面の状態ごとに画像を分け、人が正解の枠を付ける
- 配布元のしきい値でモデルを動かし、条件ごとに見逃しと誤検知を数える
- 業務に合うようにしきい値を動かし、決めるのに使わなかった別の画像で、もう一度数える
4番目で別の画像を使うのは、しきい値を決めた画像で測ると、成績が良く出やすいからです。見逃しと誤検知のどちらを減らすかの決め方は、画像検知AIを発注する前に何を決めればいい?で説明しています。
よくある質問
Q. 公開されたモデルを、自分の画像で学習し直してもいいですか?
Apache-2.0の重みなら、改変は認められています。配り直すときは、変更したことを書き、元の表示を残します。Pothole RF-DETR Nano のPyTorchの重みは、rfdetrというライブラリでそのまま読み込めるので、追加で学習させるときの出発点に使えます。
Q. 公開データでの成績が良ければ、現場の写真を集めなくてもいいですか?
集めてください。公開データのRDD2022は、日本を含む6か国の道路画像47,420枚から成り、縦・横・亀甲状のひび割れとポットホールの4種類を対象にしています(出典: Arya ほか, arXiv:2209.08538)。国も撮り方も混ざったデータなので、自分の機材と道路で撮った画像での成績は、別に測らないと分かりません。
ライセンスについての内容は法律上の助言ではないため、使う前に原文を確かめ、迷う場合は配布元や弁護士などの専門家に相談してください。
公開しているモデルを見る インフラインテリジェンスのモデルラボでは、高速道路の投雪防止表示板を見つけるモデルを公開し、道路の穴を見つけるモデルの公開を準備しています。どちらも、使い方、評価の結果、学習データの出典とあわせて載せています。
最終確認日: 2026年10月12日
参考資料
- 総務省・経済産業省「AI事業者ガイドライン(第1.1版)」令和7年3月28日
- The Apache Software Foundation「Apache License, Version 2.0」
- Creative Commons「表示 4.0 国際(CC BY 4.0)」
- COCO Consortium「COCO Terms of Use」
- roboflow/rf-detr(GitHub)
- Ultralytics Docs「YOLO Performance Metrics」
- Arya ほか「RDD2022: A multi-national image dataset for automatic Road Damage Detection」arXiv:2209.08538